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この記事は、ポーランド版『エル』が行ったインタビューの内容をUS版『エル』誌が英訳。それを日本語に翻訳・編集したものです。
――ロシアとの戦争は、日常生活にどのような影響を与えましたか? いま、どのような生活をされていますか?
オレナ・ゼレンスカ大統領夫人:生活を時間軸で考えることができなくなりました。長期的な計画はありません。私たちは、今日を生きています。今日という日が無駄に過ぎ去ってしまわないように、全力を尽くしています。
私は毎日、2つの大きな責任を果たそうとしています。ひとつは大統領の妻として、メディアのインタビューに応えたり、人道的なプロジェクトに取り組んだりすることです。これは特にいま、中断してはいけない仕事です。
もうひとつは、母親であることです。ロシアの侵攻以来、息子の“教師”を務めています。警備に関する厳格な要件に従う必要があるため、息子はオンライン授業に参加することすらできません。
ですから、息子のクラスメートが今日どんなことを学んだのか調べて、同じことを息子と一緒に勉強しています。ウクライナ語、英語、数学など……。
(小学)3年生の勉強なら、幸い私にも、まだ教えることができます。私たちにはしっかりとしたスケジュールがあります。正直なところ、それが私に冷静さを与えてくれています。不安を感じている時間が、あまりないのです。
――最近、子どもたちに質問されて最も答えに困ったのは、どんなことでしたか? また、ご自分に対して問いかけていることはありますか?──それらに対する答えは出ているのでしょうか。
大人も子どもも、誰もが答えを求めている大きな疑問は、「戦争はいつ終わるのか?」ということです。私たちはそれについて、お互いに尋ね合うことさえやめました……。ただ、希望は持ち続けています。私たちの誰もが、願っています。
――SNSを通じて、ウクライナの人々を励まし続けていらっしゃいます。ご自身を奮い立たせているのは、誰なのでしょうか。何から強さをもらっていますか?
戦争が始まって以降、私たちの国ではすべての人が、すべての人を励まし続けています……。まずは家族、そして友人たちですが、多くの場合、そこには見知らぬ人たちも含まれています。
兵士たちはどのような天気の日でも、何時でも、検問所に立っています。どこでも、飲食店が高齢者に食べ物を届けています……ウクライナの人々に薬を届けたり、治療を行ったりするために、国中、世界中の多くの人たちが、支援をしてくれています。それらを伝えるニュースのすべてが、励ましになります。
――インスタグラムに、痛ましい写真、幼い子どもたちや10代の若者たち、罪のない犠牲者たちの写真を投稿されています。亡くなった子どもたちの数は、200人近くなっています。現在の国際社会からの支援は、十分でしょうか?
子どもたちにとって何より助けになるのは、ウクライナの上空を飛行禁止区域にすることです。そして、子どもたちの上に爆弾が落とされないようにすることです!
死者の大半は、ロシアの爆弾やミサイル、それらの残骸によって命を落としています。手足を失った子どもの数は、すでに数百人にのぼっています。それでも、飛行禁止区域は設けられていません。これ以上、何を言えばいいでしょうか?
ウクライナ国内は、どこも非常に危険です。どの都市、どの地区も、敵の攻撃を受けていますから。そのため、がんと闘う子どもたちや、その他の深刻な状態にある子どもたち、そして保護者を亡くした子供たちを国外に移動させるために、できる限りのことをしています。
現在、そのための(「命のコンボイ(車列)」と呼ばれる)ルートは、(西部の都市)リヴィウからポーランドまでつながっています。そして、子どもたちはそこから、ヨーロッパの国々に送り出されます。そのようにして、命が救われています。
ですが、これだけでは十分ではありません。リヴィウでポーランド行きのバスを待っている間に、ロシアから次のミサイルが飛んでこないとは、誰も保証できないからです。
また、子どもたちに必要なことは、安全な場所へ避難すれば満たされるというわけではありません。その後には、新たな国に馴染むという次の段階が待っています。
……私は、同僚たちに呼びかけました。世界中のファーストレディたちです。彼女たちを通じて、ウクライナの子どもたちが学習を続けられるよう、そして医療を受けることができるよう、各国の機関に支援を要請しています。
ウクライナの子どもたちがすぐに新たな環境に適応し、普通の生活を取り戻せるよう、積極的に対応し、力を貸してくださったすべての同僚たちに、感謝しています。
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――先に「強さ」について質問しました。(首都キーウ近郊の)ボロディアンカやブチャでのロシア軍の戦争犯罪を前に、多くの人が無力感を抱いているからです。そうした無力さを感じることはありますか?
ウクライナには……「生存者の罪悪感」を持つ人が増えているように感じます。非常に敏感で、人の痛みを自らの痛みとして感じ、死んでいる人がいるのに自分が安全であることを受け入れ難いと感じる、他者に共感できる人たちによくみられることです。
大げさな話ではなく、これは私たちがいま抱えている問題です。私たちは皆、ひとつの生命体であるように、ひとつの家族であるように感じています。あらゆる痛みが、ほかの誰かのものではなく、私たちの痛みなのです。
ただ、多くの心理学者たちによると、こうした感情に浸ることは、適切ではありません。建設的ではないそうです。これに対する最善の治療法は、「自分にできることをする」ということです。戦うこともできます。避難民たちのために、サンドイッチを作ることもできます。アパートの一室を、提供することもできます。できることなら、どんなことでもいいのです。
――「ウクライナ」と聞いてまず連想するものは、何ですか(場所や食べ物、匂いなど)?
食べ物では、サクランボが入った「ウクライナ餃子」ですね。季節でいえば、夏です。場所は──母国の国内なら、どこでも。
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――痛ましい光景が報じられるなかで、農家のトラクターがロシア軍の戦車を運び去る様子の動画が拡散され、ジョークの種にされるなどして、ウクライナに共感を持つ人が増えました。ユーモアのセンスは、プーチン大統領のような独裁者に対する武器になると思いますか?
ユーモアに関わる仕事をしてきましたから(夫人は元脚本家)、ポーランドの詩人、スタニスワフ・イェジ・レツを大いに尊敬しています。彼はリヴィウ生まれなのです。
戦時中、強制収容所から脱走したスタニスワフが、楽な人生を送ったといえるでしょうか? いいえ。ですが、彼はユーモア作家、風刺作家であり続ける強さを持っていました。スタニスワフは、ユーモアに哲学的な意味を込めました。彼は「恐ろしいことを笑えるようになるのが、ユーモアだ」と述べています。
私はそこに、「ユーモアは恐怖に打ち勝つ」と付け加えたいと思います。これは、明らかなことです。ウクライナ人は誰でも、「私たちは笑う。だから諦めない」という言葉を知っています。その通りだと思います。
――日常から失われた“シンプルなこと”のうち、一番恋しく思うのはどんなことですか?
毎日「明日はどうなるのだろう」と問いかけることのない、シンプルな生活を、何より恋しく思います。家族との夕食を、恋しく思います。子どもたちはふざけて、私たちは笑い……皆が一緒に過ごすときです……。
――最後に、マーティン・ルーサー・キングの有名な言葉、「私には夢がある」に何か続けるとすれば、どのような言葉を選びますか?
ウクライナのすべての人たちに、勝利を目にしてほしいと思っています……私が夢見るのは、すべての人のいのちと平和(が保たれること)です。